アルファプロテオバクテリア綱(アルファプロテオバクテリアこう、Alphaproteobacteria)は細菌ドメインのPseudomonadota門の綱の一つである。生態は光合成細菌から植物共生菌まで非常に多様である。ミトコンドリアの祖先にあたる生物が属していたグループとしても知られ、アルファプロテオバクテリア綱の進化についての研究は真核生物の起源を探る上で重要である。グラム陰性であるが、細胞内寄生種はペプチドグリカンを持たず、したがってグラム染色試験での結果は陽性になることもある。ベータプロテオバクテリアおよびガンマプロテオバクテリアと近縁である。

特徴

アルファプロテオバクテリア綱は非常に多様な生物群である。ある属は光栄養細菌であり、その一部はC1化合物を代謝する(例: Methylobacterium spp.)。またある属は植物共生細菌であり(例: Rhizobium spp.)、ある属は節足動物の内生菌であり(Wolbachia属)、ある属は細胞内侵襲性の感染菌である(例: Rickettsia属)。すでに絶滅したが、アルファプロテオバクテリア綱の細菌にはかつて真核生物の細胞に侵入して現在のミトコンドリアとなったプロトミトコンドリアがいた(細胞内共生説)。Rhizobium radiobacter(過去の Agrobacterium tumefaciens)は植物細胞に外来DNAを転移させるために用いられる。Pelagibacter ubiqueといった好気性の非酸素光栄養細菌はアルファプロテオバクテリア綱であり、外洋の微生物コミュニティの10 %以上を構成すると考えられている海中プランクトンである。

下位分類(目)

アルファプロテオバクテリア綱の系統関係については大まかな合意はあるものの、いくつかの目 (order) については議論が続いている(例えばペラジバクター目、 リケッチア目、ホロスポラ目)。他の細菌や古細菌と同様、その分類や系統関係については現在も絶えず改定が続いている。NCBIのデータベースでは現在20の目が設定されている。一方、GTDBでは35の目が設定されている。分子系統解析とアルファプロテオバクテリア綱メンバーのゲノムに特徴的なインデルの分析により、アルファプロテオバクテリア綱の分岐は細菌ドメインの中ではかなり遅く、ベータプロテオバクテリア綱とガンマプロテオバクテリア綱のみがアルファプロテオバクテリア綱より後に分岐したと推定されている。

アルファプロテオバクテリア綱のうち、最も早くに分岐したのはマグネトコッカス目 (Magnetococcales) であることはおおむね支持されているが、この目をアルファプロテオバクテリア綱に含めるかについては議論があり、独立した目としてイータプロテオバクテリア綱 (Etaproteobacteria) の設立も提案されている(ただし、2021年現在も認められていない)。2018年の研究では、ミトコンドリアはマグネトコッカス目を除く全てのアルファプロテオバクテリア綱に対して姉妹群となることが示唆された。これはミトコンドリアにつながる祖先の系統分岐がアルファプロテオバクテリア綱内で非常に早く起こったことを示している。またミトコンドリアの系統が、リケッチア目と近縁ではあるものの、独立した系統群を形成することも示唆している。

以下に2024年9月現在での所属目について記載する。

IJSEMに承認された目

  • Caulobacterales カウロバクター目
    Henrici & Johnson 1935(IJSEMリストに掲載 1980)
    タイプ属はCaulobacter属(カウロバクター属)である。
    • Caulobacteraceae科(カウロバクター科)
      Caulobacter属、Asticcacaulis属(アスティカカウリス属)、Brevundimonas(ブレブンディモナス属)、Phenylobacterium(フェニロバクテリウム属)などを含む。
    • Hyphomonadaceae科(ヒフォモナス科)
      Hyphomonas属(ヒフォモナス属)、Hirschia属(ヒルスチア属)などを含む。
    • Maricaulaceae科(マリカウリス科)
      Maricaulis属(マリカウリス属)、Oceanicaulis属(オセアニカウリス属)、Woodsholea属(ウッドソレア属)などを含む。
  • Emcibacterales
    Iino et al. 2016(IJSEMリストに記載 2017)
    タイプ属はEmcibacter属である。
    Emcibacter属、Luteithermobacter属、Paremcibacter属などを含むEmcibacteraceae科のみで構成される。
  • Futianiales
    Liu et al. 2024(IJSEMリストに記載 2024)
    Futiania属のみを含むFutianiaceae科のみで構成される。
  • Holosporales ホロスポラ目
    Szokoli et al. 2020(IJSEMリストに記載 2020)
    タイプ属はHolospora属(ホロスポラ属)である。
    Holospora属、Pseudocaedibacter属(シュードカエディバクター属)、Tectibacter属(テクチバクター属)を含むHolosporaceae科(ホロスポラ科)のみで構成される。
  • Hyphomicrobiales ヒフォミクロビウム目
    Douglas 1957(IJSEMリストに掲載 1980)、修正 Hördt et al. 2020
    タイプ属はHyphomicrobium属(ヒフォミクロビウム属)である。
    • Hyphomicrobiaceae科(ヒフォミクロビウム科)
      Hyphomicrobium属、Filomicrobium属(フィロミクロビウム属)、Dichotomicrobium属(ジコトミクロビウム属)、Seliberia属(セリベリア属)などを含む。
    • Nitrobacteraceae科(ニトロバクター科)
      Nitrobacter属(ニトロバクター属)、Bradyrhizobium属(ブラディリゾビウム属)、Rhodopseudomonas属(ロドシュードモナス属)などを含む。
    • Rhizobiaceae科(リゾビウム科)
      Rhizobium属(リゾビウム属)、Agrobacterium(アグロバクテリウム属)、Allorhizobium(アロリゾビウム属)などを含む。
    • Kaistiaceae科(カイステア科)
      Kaistia属(カイステア属)とBauldia属で構成される。
    • Xanthobacteraceae科(キサントバクター科)
      Xanthobacter属(キサントバクター属)、Azorhizobium属(アゾリゾビウム属)、Ancylobacter属(アンキロバクター属)、Aquabacter属(アクアバクター属)などを含む。
    その他、多数の科で構成される。
  • Iodidimonadales
    Iino et al. 2016(IJSEMリストに記載 2017)
    Iodidimonas属のみを含むIodidimonadaceae科のみで構成される。
  • Kordiimonadales コーディイモナス目
    Kwon et al. 2005(IJSEMリストに記載 2006)、修正 Hördt et al. 2020 (IJSEMリストに掲載 2020)
    タイプ属はKordiimonas属(コーディイモナス属)である。Temperatibacter属、Kordiimonas属、Eilatimonas属などを含むTemperatibacteraceae科のみで構成される。
  • Magnetococcales マグネトコッカス目
    Bazylinski et al. 2007(IJSEMリストに掲載 2013)
    Magnetococcus属(マグネトコッカス属)のみを含むMagnetococcaceae科(マグネトコッカス科)のみで構成される。
  • Mariprofundales マリプロフンドゥス目
    Hördt et al. 2020(IJSEMリストに掲載 2020)
    Mariprofundus属(マリプロフンドゥス属)のみを含むMariprofundaceae科(マリプロフンドゥス科)のみで構成される。
  • Micropepsales
    Harbison et al. 2017(IJSEMリストに記載 2017)
    タイプ属はMicropepsis属である。Micropepsis属とRhizomicrobium属のみを含むMicropepsaceae科のみで構成される。
  • Minwuiales
    Sun et al. 2018(IJSEMリストに記載 2019)
    Minwuia属のみを含むMinwuiaceae科のみで構成される。
  • Rhodobacterales ロドバクター目
    Garrity et al. 2006(IJSEMリストに記載 2006)、修正 Hördt et al. 2020(IJSEMリストに掲載 2020)
    タイプ属はRhodobacter属(ロドバクター属)である。
    • Paracoccaceae科(パラコッカス科)
      Paracoccus属(パラコッカス属)、Rhodobacter属、Pseudorhodobacter属(シュードロドバクター属)などを含む。
    • Neomegalonemataceae
      Neomegalonema属のみを含む。
    • Roseobacteraceae科(ロゼオバクター科)
      Roseobacter属(ロゼオバクター属)、Antarctobacter属(アンタルクトバクター属)、Octadecabacter属(オクタデカバクター属)、Roseovarius属(ロゼオバリウス属)、Roseivivax属(ロゼイビバックス属)、Sagittula属(サギッツラ属)、Ruegeria属(ルエゲリア属)などを含む。
    その他、多数の科で構成される。
  • Rhodospirillales ロドスピリルム目
    Pfennig and Trüper 1971(IJSEMリストに掲載 1980)、修正 Hördt et al. 2020(IJSEMリストに掲載 2020)
    タイプ属はRhodospirillum属(ロドスピリルム属)である。
    • Rhodospirillaceae科(ロドスピリルム科)
      Rhodospirillum属、Magnetospirillum属(マグネトスピリルム属)、Rhodospira属(ロドスピラ属)、Roseospira属(ロセオスピラ属)などを含む。
    • Acetobacteraceae科(アセトバクター科)
      Acetobacter属(アセトバクター属)、Gluconacetobacter属(グルコナセトバクター属)、Gluconobacter属(グルコノバクター属)、Acidomonas属(アシドモナス属)などを含む。
    その他、多数の科で構成される。
  • Rhodothalassiales ロドタラシウム目
    Venkata Ramana et al. 2014(IJSEMリストに記載 2014)
    Rhodothalassium属(ロドタラシウム属)のみを含むRhodothalassiaceae科(ロドタラシウム科)のみで構成される。
  • Rickettsiales リケッチア目
    Gieszczykiewicz 1939(IJSEMリストに掲載 1980)、修正 Brenner et al. 1993(IJSEMリストに記載 1994)、修正 Dumler et al. 2001(IJSEMリストに記載 2002)
    タイプ属はRickettsia属(リケッチア属)である。
    • Rickettsiaceae科(リケッチア科)
      Rickettsia属、Orientia属(オリエンティア属)などを含む。
    • Ehrlichiaceae科(エールリキア科)
      Ehrlichia属(エールリキア属)、Aegyptianella属(エジプティアネラ属)、Anaplasma属(アナプラズマ属)、Wolbachia属(ボルバキア属)などを含む。
  • Sneathiellales スネアチエラ目
    倉橋みどりら 2008(IJSEMリストに掲載 2008)
    Sneathiella属(スネアチエラ属)のみを含むSneathiellaceae科(スネアチエラ科)のみで構成される。
  • Sphingomonadales スフィンゴモナス目
    Yabuuchi and Kosako 2006(IJSEMリストに掲載 2006)、修正 Hördt et al. 2020 (IJSEMリストに掲載 2020)
    タイプ属はSphingomonas属(スフィンゴモナス属)である。
    • Sphingomonadaceae科(スフィンゴモナス科)
      Sphingobium属、Sphingopyxis属(スフィンゴピクシス属)、Blastomonas属(ブラストモナス属)などを含む。
    • Sphingosinicellaceae科(スフィンゴシニセラ科)
      Sphingosinicella属(スフィンゴシニセラ属)などを含む。
    • Erythrobacteraceae科(エリスロバクター科)
      Erythrobacter属(エリスロバクター属)、Novosphingobium属(ノボスフィンゴビウム属)などを含む。
    • Zymomonadaceae科(ザイモモナス科)
      Zymomonas属(ザイモモナス属)のみで構成される。

IJSEMに未承認の目

  • Parvularculales” パルブラルキュラ目
    Garrity et al. 2003(IJSEMリストに掲載 2003)、修正 Sun et al. 2020(IJSEMリストに掲載 2019)
    タイプ属はParvularcula属(パルブラルキュラ属)である。Parvularcula属、Amphiplicatus属、Aquisalinus属などを含む “Parvularculaceae” 科(パルブラルキュラ科)のみで構成される。
  • Candidatus Pelagibacterales” ペラギバクター目
    Grote et al. 2012(IJSEMリストに掲載 2003)
    タイプ属は “Candidatus Pelagibacter” 属(ペラギバクター属)である。“Candidatus Pelagibacter” 属と “Candidatus Allofontibacter” 属のみを含む “Candidatus Pelagibacteraceae” 科(ペラギバクター科)のみで構成される。
  • Candidatus Puniceispirillales”
    Chuvochina et al. 2023
    Candidatus Puniceispirillum” 属のみを含む “Candidatus Puniceispirillaceae” 科のみで構成される。

系統樹

アルファプロテオバクテリア綱の分類体系は “List of Prokaryotic names with Standing in Nomenclature” (LPSN)と米国立生物工学情報センター (NCBI)で公開されている。下記の系統樹は呼吸複合体IのサブユニットNuoLを用いて2022年に作成されたものである。

自然遺伝子形質転換

アルファプロテオバクテリア綱の自然遺伝子形質転換の過程についてはAgrobacterium tumefaciensMethylobacterium organophilum、およびBradyrhizobium japonicumで明らかになっている。形質転換はDNAをある細胞から別の細胞に移動させる過程であり、相同組換えによって供給DNAは受容ゲノムに組み込まれる。

脚注

関連項目

  • ミトコンドリア
  • 真核生物
  • プロテオバクテリア
  • 細菌
  • 光合成細菌

外部リンク

  • ウィキスピーシーズには、アルファプロテオバクテリア綱に関する情報があります。
  • Alphaproteobacteria - MeSH・アメリカ国立医学図書館・生命科学用語シソーラス(英語)
  • Bacterial (Prokaryotic) Phylogeny Webpage: Alpha Proteobacteria.

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